企業活動基本調査を用いた機械産業のサービス化の統計的把握について

 

東京大学先端科学技術研究センター&経済産業研究所

元橋 一之

 

1.機械産業のサービス化に関する概念整理

 機械産業のサービス化を統計によって定量的に把握するためには、その概念を整理する必要がある。本研究会では、機械産業に対する国内需要の低迷や国際競争の激化が進む中、本業に付随するサービスに展開することで企業収益の確保を図る企業について調査してきた。ただ、その内容については、計装メーカーや業務用冷凍機メーカーによるメンテナンス事業、医療用機器メーカーによる遠隔診断サービス、コンピュータシステムの導入に付随するソフトウェア開発(ソリューションビジネス)と多岐にわたっている。

 このような企業活動の多角化は、当該活動の売上高等のアウトプットに着目して行うことによって統計的把握が可能である。しかしながら、既存の統計は通常、その主たる産業活動で格付けされており[1]、企業が属する産業とその企業の事業内容の対応関係について明らかにしているものは少ない。例えば、工業統計においては、各事業所に対して産業活動(品目)別の調査が行われているが、その集計結果は、事業所を主たる産業活動で格付けた集計(産業編)と産業活動(品目)別に集計されたもの(品目編)という形になっている。従っていずれの結果を見ても、事業所の主たる産業活動と当該産業における多角化の状況が明らかにならない。

 また、機械産業のサービス化の統計的把握は、売上高などのアウトプットではなく、従業員の職種などのインプットに着目して行うことも可能である。本研究会で調査を行ってきた企業のケースを見ても、機械メーカーにおけるサービス事業は、もともと対価を得るサービス事業としてではなく、当該企業における製品に対する無償の「サービス」として始まったものが多い。また、工作機械メーカーにように、メンテナンスサービスなどを工作機械の営業活動の一環として行っている企業も存在する。このような場合は当該サービス活動がアウトプットには現れないので、機械産業のサービス化を幅広くとる場合には、インプットに着目して統計的把握を行うことが有効である。

 本稿では企業活動基本調査(経済産業省)を用いて、機械産業のサービス化をアウトプット、インプットの両面から把握することを試みる。企業活動基本調査は、従業員数50人以上で資本金3000万円以上の製造業、卸小売業、特定のビジネスサービス業に属するすべての企業を対象とする統計で、アウトプット、インプットの両面における企業活動の多角化の情報を提供している。現在、平成14年調査(平成13年度データ)の結果が公表されており、項目によっては年次で時系列的な変化を追うことも可能である。以下、最新時点の公表物(平成14年調査)をベースに行った分析、平成8年度〜12年度の企業レベルパネルデータを用いた分析の順に述べることとする。

 

2.公表データを用いた機械産業のサービス化の状況

 機械産業のサービス化の動向を示す指標として、企業活動基本調査において利用可能な項目は以下のとおりである。

(アウトプットサイドの指標)

     子会社の多角化の状況:業種別・国内外別の子会社の保有数

     売上高にみる多角化の状況:業種別の売上高

(インプットサイドの指標)

     事業所の保有状況:事業所の種類別(本社、製造事業所、商業事業所、サービス事業所等)の保有数

     職種別従業員数:職種分類については、調査企画、情報処理、研究開発、製造、営業販売、サービス事業など

ただし、上記の項目のうち売上高にみる多角化の状況以外の項目については、平成13年調査(平成12年度データ)において大幅改正が行われ、サービス関係の分類については本改正時に追加された。これらの項目については、平成12、13年度の2年分のデータしか存在しないので経年的変化を追うことはできない。従って、ここではまず、売上高にみる多角化の状況から機械産業のサービス化の動向を見ることとする。表1は、『企業活動基本調査報告書・第2巻企業多角化等集計表』のデータを用いて、売上高に占める「製造品」、「卸小売」、「サービス」、「情報サービス」のそれぞれの売上シェアを算出したものである。なお、年次によって対象企業数が異なっているが、これはそれぞれの年において一定規模以上の企業が調査対象となることから対象企業が入れ替わっていることによる。

 

(表1)

 

まず、製造業全体についてみると、製造品の割合が上昇しており、その一方で卸小売の割合が低下している。サービス(情報サービスを除くビジネスサービス)と情報サービスの割合については安定的に推移しているが、その割合は両方合わせて1%とごく僅かである。これは機械産業全体についてもほぼ同様の内容となっている。情報通信機器業における情報サービスの割合が高いことから、情報サービスの割合は製造業のほぼ2倍であるが、それ以外のビジネスサービスの割合は製造業全体と同等のレベルである。なお、機械産業を業種別に見ると一般機械におけるサービスの割合がやや高くなっている。一般機械の内訳を見ると金属加工機械(金属工作機械、機械器具等)が平成13年度で3.0%と特に高くなっている。しかし、その割合は依然として低いレベルにとどまっており、業種全体で見ると機械産業のサービス化はまだまだ進んでいないということが言える。

 ただし、表1の統計は子会社等を含まない単独決算ベースのものであることに留意することが必要である。サービス業に対する多角化を積極的に行っている企業においては、当該事業を子会社化して行うケースもあることから、連結ベースで多角化の状況について見ることが必要である。企業活動基本調査においては、平成13年調査(平成12年度データ)から業種別の子会社保有状況についての調査を行っており、連結ベースで見た多角化の状況について最近の状況を見ることができる。表2は、平成13年度の子会社の数について業種別のシェアを国内、海外に分けて見たものである。

 

(表2)

 

まず、サービス事業所の割合は製造業全体で11.0%となっており、売上高ベースのシェアを示した表1と直接比較することはできないが、連結ベースで見るとサービス業への多角化はより進んでいるものと考えられる。また、機械産業全体は、国内、海外ともサービス業の割合が製造業全体より若干高くなっている。業種別に見ると情報通信機械器具製造業が最も高く、電気機械器具製造業が続いている。なお、情報通信機械器具製造業は国内において、電気機械器具製造業については海外におけるサービス子会社の割合が高いことが特徴的である。

 

3.パネルデータを用いたITとサービス化の分析

前節では、企業活動基本調査における集計データを用いて、主にアウトプットから見た機械産業のサービス化の動向について見た。企業の単独決算ベースで見ると、このところ売上高に占める製造品のシェアが増加しており、本業回帰の動きが見られる。また、サービス業の売上に占める割合は1%弱と僅かなシェアのとどまっていることが分かった。ただし、前節の分析結果は年次によって対象企業が異なり、特に業種を細かくすると対象企業数が減少し、サンプルの違いの影響をより大きく受けるという問題点が存在する。また、アウトプットベースによるサービス化の動向では、製品と一体的に供給されるサービスが把握されないという問題点が存在する。従って、ここでは1994年〜2000年までのすべての年次において対象となる企業のパネルデータをベースにインプットから見た機械産業のサービス化に関する分析を行う。[2]

インプットサイドからみたサービス化については、従業員の職種別統計を用いた。ただし、職種分類にサービス業従事者が加わったのは2000年度データなので、1994年から1999年は営業販売などの製造活動従事者以外の従業者の動向について見ることとする。1994年度から2000年度まですべての期間で調査対象となった製造業に属する企業は5258社存在し、そのうち機械産業に属するのは3211社である。表3は、このパネルデータをベースに詳細な産業分類毎の総従業員数に占める各職種に属する従業員のシェアの推移を見たものである。

 

(表3)

 

製造業全体や機械産業全体では、生産関係従業者のシェアの変化は見られないが、特殊産業用機械や時計・部品のように減少傾向にあるものも存在する。また、営業販売関係従事者のシェアを見ると、一部の業種を除いて概ね増加傾向にある。企業活動において営業活動に重点が置かれるようになることは、顧客との関係でサービスに力を入れるようになってきていると解釈することも可能である。なお、最近の状況について業種間で比較すると、営業販売従事者のシェアが高い業種は、特殊産業用機械、事務用・サービス用機械、その他精密機械などである。これらの業種においてはサービス業従事者のシェアも相対的に高くなっていることから、営業活動とサービス業は相関関係を持っていることが考えられる。

本調査研究では、機械産業におけるサービス化についての先端的な事例の調査を行った。医療機器メーカーによるメンテナンスの遠隔操作や計装メーカーによるビル全体の空調管理システムなどの先端的な事例に共通するのは情報ネットワークの活用である。そこで最後に情報ネットワークの活用状況と従業員構成の関係について分析を行った。企業活動基本調査においては、1991年度データから2000年度データまで3年毎に情報ネットワークの活用状況に関するデータが入手可能である。細かい調査項目は年によって見直しがされているが、1994年〜2000年まで期間を通して活用できる項目としては、企業内ネットワークと企業間ネットワークの導入の有無がある。表4は1994年と1997年時点でそれぞれのネットワークの導入の有無によって、従業員の職種別構成がどのように変化するかについてまとめたものである。また、表5は、2000年のみ利用可能であるサービス業従事者の割合が、これらの情報ネットワークの導入有無によってどのように異なるかについて見たものである。

 

(表4)、(表5)

 

まず、表4について見ると企業内ネットワークと企業間ネットワークは職種別構成に異なる影響を与える。企業内ネットワークを利用している企業は、営業販売従事者のシェアが高い一方で製造関係従事者のシェアが低くなっている。逆に企業間ネットワークを利用している企業は、営業販売従事者のシェアが低くなり、製造関係従事者のシェアが高くなっている。機械産業のサービス化の先端事例については、いずれも顧客との間の企業間ネットワークを活用した事例である。表4の結果は、企業間ネットワークを活用している企業は、顧客との間のインタラクションをネット上で行い、営業販売活動を効率化していると解釈することができる。顧客サポートは本来、労働集約的な作業であるが、これをネット上で行うことによって効率化を図ることができる。また、表4からは直接読みとれないが、ルーティーンの顧客サポートはネット上で行い、訪問によるサービスはより高度なものに特化してトータルとしての顧客サービスを向上させることも可能である。なお、企業内ネットワークの有無については、企業規模との相関関係が高く、大企業ほど間接部門の比率が高いことによって見せかけの相関関係が現れていると考えられる。この点については、企業規模をコントロールした回帰分析を行うなどより詳細な分析を行っていく必要がある。

最後に表5であるが、企業間ネットワークの活用とサービス業従事者の割合については、明確な関係が見られなかった。そもそもサービス業従事者の割合は1%弱と非常に小さいことから相関関係が現れなかったものと考えられる。この点については、ある程度サービス業に対して活発な活動を行っている企業を取り出して分析するなど、今後より詳細な分析を行って行くことが必要と考える。


表1:業種別の売上高に見る多角化の状況


表2:子会社数の業種別分布


表3:職種別従業員構成の推移



表4:情報ネットワークと職種構成(1)

 


表5:情報ネットワークと職種構成



[1] 通常、企業は複数の産業分類にまたがる活動を行っているが、通常、その主たる事業で各企業の格付けが行われる。つまりすべての売り上げが主たる事業として計上され、その上で産業別集計が行われる。

[2] 本節における企業活動基本調査の個票分析は、経済産業研究所における「ハイテク産業の国際競争力に関する計量分析」の一環として行われたものである。